暴风雨(上)
寺田寅彦
翻译:王志镐
始めてこの浜へ来たのは春も山吹の花が垣根に散る夕であった。浜へ汽船が着いても宿引きの人は来ぬ。独り荷物をかついで魚臭い漁師町を通り抜け、教わった通り防波堤に沿うて二町ばかりの宿の裏門を、やっとくぐった時、朧おぼろの門脇に捨てた貝殻に、この山吹が乱れていた。翌朝見ると、山吹の垣の後ろは桑畑で、中に木蓮もくれんが二、三株美しく咲いていた。それも散って葉が茂って夏が来た。
第一次来到这海滨,是在一个春天的棣棠花散落在墙根的黄昏。汽船已靠岸,却没旅店的人来接客。我一个人扛着行李,穿过弥漫着鱼腥气的渔民小镇,沿着别人指点的防护堤大街,来到了只隔着两条街的旅店后门,终于走进那扇门,隐隐约约看见门的旁边扔着舍弃的贝壳,棣棠花瓣散落其中。第二天早上一看,棣棠花墙后是桑田,其中有两三株木兰,开的花美丽无比,可是有些已经凋谢,而叶子却非常茂盛,夏天来了。
宿はもと料理屋であったのを、改めて宿屋にしたそうで、二階の大広間と云うのは土地不相応に大きいものである。自分は病気療養のためしばらく滞在する積つもりだから、階下の七番と札のついた小さい室を借りていた。ちょっとした庭を控えて、庭と桑畑との境の船板塀には、宿の三毛みけが来てよく昼眠ひるねをする。風が吹けば塀外の柳が靡なびく。二階に客のない時は大広間の真中へ椅子を持出して、三十畳を一人で占領しながら海を見晴らす。右には染谷そめやの岬、左には野井のいの岬、沖には鴻島こうのしまが朝晩に変った色彩を見せる。三時頃からはもう漁船が帰り始める。黒潮に洗われるこの浦の波の色は濃く紺青こんじょうを染め出して、夕日にかがやく白帆と共に、強い生々いきいきとした眺めである。これは美しいが、夜の欸乃あいだいは侘しい。訳もなしに身に沁む。此処ここに来た当座は耳に馴れぬ風の夜の波音に目が醒めて、遠く切れ/\に消え入る唄の声を侘しがったが馴れれば苦にもならぬ。宿の者も心安くなってみれば商売気離れた親切もあって嬉しい。雨が降って浜へも出られぬ夜は、帳場の茶話に呼ばれて、時には宿泊人届の一枚も手伝ってやる事もある。宿の主人は六十余りの女であった。昼は大抵沖へ釣りに出るので、店の事は料理人兼番頭の辰さんに一任しているらしい。沖から帰ると、獲物を焼いて三匹の猫に御馳走をしてやる。猫は三毛と黒と玉。夜中に婆さんが目を醒した時、一匹でも足りないと、家中を呼んで歩くため、客の迷惑する事も時にはある。この婆さんから色々の客の内輪うちわの話も聞かされた。盗賊が紳商に化けて泊っていた時の話、県庁の役人が漁師と同腹になって不正を働いた一条など、大方はこんな話を問わず語りに話した。中には哀れな話もあった。数年前の夏、二階に泊っていた若い美しい人の妻の、肺で死んだ臨終のさまなど、小説などで読めば陳腐な事も、こうして聞けば涙が催される。浦の雨夜の茶話は今も心に残っているが、それよりも、婆さんの潮風に黒ずんだ顔よりも、垣の山吹よりも深く心に沁み込んで忘られぬものが一つある。
这家旅店原来好像是饭店,后来才改为旅店,二楼大厅十分宽敞,似乎与这个地方不太相称。为了养病,我打算暂时住在那里,所以在楼下租下了挂着七号牌子的小房间。面临蛮不错的庭院,庭院与桑田的边界是船板围墙,旅店的三色猫常来此睡午觉。如有风吹来,墙外的柳树迎风招展。二楼没有客人的时候,将大厅正中的椅子搬出去,一个人独占着三十榻榻米面积的地方,眺望大海。右边是染谷海岬,左边是野井海岬,海面上可以看见鸿岛,清晨和傍晚变幻着不同的色彩。从三时起渔船开始回港。黑潮冲洗了这个海湾,波涛被染成了浓浓的深蓝色,隔海瞭望,夕阳生辉,尽染白帆,栩栩如生。景色真美,夜晚的渔歌使人好不寂寞,令我铭刻于心。刚来到这里时,耳边不断地响起风声,夜里被涛声惊醒,远处断断续续悲痛欲绝的歌声使人感到凄凉,但听惯了就也不感到苦了。如果住客心情平静的话,就会感到一种脱离了商业气氛的亲切感和欣喜。在下雨不能去海边的夜里,我时常被招呼去账房闲谈,不时还帮助办理某个房客入住。旅馆老板是一个六十多岁的女人,白天多半出海钓鱼,旅店的事情似乎全都交给厨师兼领班辰先生一个人担任。从海上回来后,将捕获的东西在火上烤一烤,让三只猫饱餐一顿。三只猫是三毛、小黑和小玉。半夜老太婆醒来时,如发现缺少一只,就在家里奔走呼叫,不时也困扰到房客。我从这个老太婆那里听说了各式各样房客的圈内秘闻。有盗贼化装成巨商住宿的故事,有县厅差役与渔民结成同党干的坏事,大概就是这样的故事,不用打听就自己说出来了。其中不乏悲惨的故事。几年前的夏天,曾住在二楼的一个人的年轻美貌的妻子,因肺病死去,临终苦不堪言等等。这些事情如放在小说里面都是些陈腐旧事,可就那样听了,还真的催人泪下。这海滨雨夜闲话至今还留在我的心里,与此相比,与老太婆被海风吹黑的脸相比、与篱笆墙边的棣棠花相比,还有一件事深深铭刻在我的心中,使我久久不能忘怀。
宿の裏門を出て土堤どてへ上り、右に折れると松原のはずれに一際ひときわ大きい黒松が、潮風に吹き曲げられた梢を垂れて、土堤下の藁屋根に幾歳の落葉を積んでいる。その松の根に小屋のようなものが一つある。柱は竹を堀り立てたばかり、屋根は骨ばかりの障子に荒莚あらむしろをかけたままで、人の住むとも思われぬが、内を覗いてみると、船板を並べた上に、破れ蒲団がころがっている。蒲団と云えば蒲団、古綿の板と云えばそうである。小屋のすぐ前に屋台店のようなものが出来ていて、それによごれた叺かますを並べ、馬の餌にするような芋の切れ端しや、砂埃すなぼこりに色の変った駄菓子が少しばかり、ビール罎びんの口のとれたのに夏菊などさしたのが一方に立ててある。店の軒には、青や赤の短冊に、歌か俳句か書き散らしたのが、隙間もなく下がって風にあおられている。こう云う不思議な店へこんな物を買いに来る人があるかと怪しんだが、実際そう云う御客は一度も見た事がなかった。それにもかかわらず店はいつでも飾られていてビール罎の花の枯れている事はなかった。
我出了旅店的后门,爬上土堤,向右转弯,松树丛生的平原尽头是一棵非常巨大的黑松,被海风吹着,弯曲的树梢垂落下来,土堤下的茅草屋顶上,积攒了陈年落叶。在这松树的根部,有一间看似房子的陋室,仅靠移栽的竹子做立柱,房顶为仅剩骨架的拉窗以及覆盖着的粗草帘子。我想不会有人住在这里吧,向里张望,只见在并排的船板上,扔着一床破烂不堪的被褥。如果说这也算是被褥的话,只能说是塞了旧棉花的被套罢了。小屋前面似乎搭建了一个饭摊,那里放着肮脏的草袋子,像马的饲料似的芋头的碎片,以及一些滚落在尘土中的变了色的杂粮点心,啤酒罐头去了口,插着夏菊等花儿,朝着一个方向立着。小店的屋檐底下,蓝色和红色的长条纸上面胡乱涂写着和歌还是俳句,不留间隙地垂挂着,随风飘动。像这样不可思议的小店,我怀疑真会有人来买东西吗?实际上我一次也没见着有人来。不管如何,小店在那里摆设着,啤酒罐里的菊花也没有凋谢。
誰れにも訳のわからぬこの店には、心の知られぬ熊さんが居る。
自分は浜辺へ出るのに、いつもこの店の前から土堤を下りて行くから熊さんとは毎日のように顔を合せる。土用の日ざしが狭い土堤いっぱいに涼しい松の影をこしらえて飽き足らず、下の蕃藷畑ばんしょばたけに這いかかろうとする処に大きな丸い捨石があって、熊さんのためには好い安楽椅子になっている。もう五十を越えているらしい。一体に逞たくましい骨骼こっかくで顔はいつも銅のように光っている。頭はむさ苦しく延び煤すすけているかと思うと、惜しげもなくクリクリに剃りこぼしたままを、日に当てても平気でいる。
在这家谁也不了解情况的旅店,住着尚未深交的熊先生。
我去海边,经常走过这家店前面的土堤,所以几乎每天与熊先生碰面。伏天的阳光直射狭窄的土堤,完全吞没了阴凉的松影却还不满足,正在往下面的番薯地里爬行,那里有大块的圆形弃石,成为熊先生喜欢的安乐椅。他似乎已过了五十岁,总的来说有着强壮的骨骼,脸上经常闪着古铜色的光。我原以为他的脑袋会肮脏不堪,涂满烟灰,没想到他不惜剃了个光溜溜的脑袋,被日头照着也满不在乎。
着物は何処どこかの小使のお古らしい小倉こくらの上衣に、渋色染の股引ももひきは囚徒のかと思われる。一体に無口らしいが通りがかりの漁師などが声をかけて行くと、オーと重い濁った返事をする。貧苦に沈んだ暗い声ではなくて勢いのある猛獣の吼声のようである。いつも恐ろしく真面目な顔をして煙草たばこをふかしながら沖の方を見ている。怒っているのかと始めは思ったがそうではないらしい。いつ見ても変らぬ、これが熊さんの顔なのであろう。
他穿的是哪里的小差使穿的旧的小仓布上衣、淡茶色的圆筒裤子,使人联想起囚徒。一般来说他总是沉默寡言,恰巧路过的渔民去向他打个招呼,得到的是一声迟钝而浑浊的回答“哦”。那不是对贫困生活逆来顺受的阴郁声音,而是气势十足的猛兽般的吼声。他总是一副令人恐怖的样子,一边吸着烟,一边向海面上瞧着。一开始以为他在发怒,不过也许不是。无论什么时候见了都不改变,这就是熊先生的表情吧。
(待续)